blog.鶯梭庵

二〇〇九年 弥生 十五日 日曜日

Drop the other shoe [/language]

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今月3日の TidBITS の記事 Amazon Releases Kindle Software for iPhone日本語訳)は、"The other shoe has dropped" という文で始まっている。この表現は、"drop the other shoe" または "wait for the other shoe to drop" というかたちで使われることが多い。

文字通り訳せば、「もう片方の靴を落とす」あるいは「もう片方の靴が落ちるのを待つ」ということだが、これは、次にするべきことをする、あるいは次に起こるべきことが起こるのを待つという意味だ。

World Wide Words の記事によると、この言葉の元は次のような話だそうだ。ある男が夜遅く下宿屋に帰り、ベッドに座って片方の靴を脱ぎ、床に落とした。そのときに音がしたので、その男は、ほかの宿泊客の迷惑にならないようにと、もう片方の靴を脱いでそっと床に置いた。そして着替えを終え、眠ろうとすると、階下から叫び声が聞こえた。「もう片方の靴を落とせ! 眠れないじゃないか! もう片方の靴が落ちるのを待ってるんだ!」

これは有名なコントだったのかもしれないが、この言葉自体いつ頃から使われているかはっきりしないそうで(もっとも古い用例は1921年のものが知られているそうだ)、正確な出所は分からないらしい。

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二〇〇九年 睦月 廿六日 月曜日

ポーチとパウチ [/language]

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pouch という英単語がある。「小さな袋」といった意味だ。発音をカタカナで書くと「パウチ」に近い。だが、身の回りのものを入れる小さな袋や鞄は日本語で「ポーチ」という。おそらく、ローマ字読みしてしまったものが定着したのだろう。以前書いた「ストレージ」のようなものだろうか。しかし、レトルトやラミネートなど、比較的新しい使用法では、原音に近く「パウチ」といっているから面白い。

「ポーチ」に似た例として「アイロン」がある。これは英語で iron だが、その発音は「アイアン」に近い。「鉄」という意味だ。服にかけるのはアイロンだが、ゴルフではアイアンだ。storage も、コンピュータ以外の分野で「ストーリッジ」という表記が定着することがあるかもしれない。

ポーチと言えば、家の外で屋根がある部分も「ポーチ」というが、こちらは英語では porch なので、「ポーチ」で正しい。「ポーチドエッグ」は英語で poached egg だが、poach の語源は pouch と共通している。卵の白身で黄身を包むようにゆでる調理法が先にあって、そこから逆に「ゆでる」という意味の poach という動詞ができた。これも発音は「ポーチ」に近い。

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二〇〇八年 霜月 十四日 金曜日

「簿記」の語源 [/language]

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英語に "bookkeeping" という言葉がある。日本語では「簿記」という。とある英和辞典を引いていたところ、「簿記は bookkeeping の音訳」という旨の記述があった。そんなこともあるものかと思って調べていると、これについて調べた小論文が見つかった。

簿記の語源について(PDF)

それによると、江戸時代にはオランダ語で書かれた簿記の本が日本に入っていたが、訳語はなくカタカナで表記していた。明治時代になると、「簿記」という訳語が使われるようになるが、その時代の英和辞典には「簿記」と訳しているものはないそうだ。そうなると、「簿記」が英語からの音訳だという説は、否定してよいだろう。

もちろん、日本には昔から日本式の簿記があったわけで、それは「帳合」と呼ばれていた。文部省および学校関係では「記簿」という言葉を使っていたが、そのほかの省庁では「簿記」と言うことが多かったようだ。大蔵省や銀行関係でも「簿記」が採用されたため、現在では「簿記」に統一されたということらしい。

では、「簿記」の語源はどこかというと、宋の時代の『唐書百官志』にこの言葉があるそうだ。もともと「帳簿に記入する」というぐらいの、今より広い意味の言葉であったものが、次第に "bookkeeping" の意味に限定されて使われるようになったらしい。その点からしても、「簿記」の音訳説は否定される。

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二〇〇八年 長月 十九日 金曜日

砂を噛む [/language]

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英語に bite the dust という表現がある。直訳すれば「砂ぼこりを噛む」ということで、打ち負かされる、死ぬ、故障して動かなくなるといった意味になる。1930 年代の西部劇で頻繁に使われた言い回しだそうだ。荒れ地でカウボーイとインディアンが馬上の戦いをして、負けたほうが落馬して息絶えるという場面には、確かにぴったりだ。

日本人もまったく同じ発想をするようで、相撲で「砂を噛ます」と言うと、相手を倒す意味になるそうだ。

「砂を噛むような」というのは、文字面は似ているが、意味はまったく異なる。つらい、または悔しい思いをするというような意味だと思っている人が多いようだが、実は「味気ない」という意味だ。「砂を噛むような人生」というのは、つらい人生ということではなく、無味乾燥でつまらない人生ということだ。もっとも、つまらない人生を送ることはつらいことではあるが。

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二〇〇八年 水無月 十五日 日曜日

ピーマンとトウガラシ [/language]

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ピーマンは英語で green pepper という。辛くないのにペッパーとは何事かと思うかもしれないが、「ピーマン」の語源はフランス語でトウガラシを表す piment だと言われている。実際のところ、ピーマンとトウガラシは植物学的には同じだ。トウガラシのうち、辛くない緑色の品種をピーマンと呼んでいる。近ごろの日本では赤や黄色のピーマンをパプリカといっているが、これも品種の違いに過ぎない。

英語では緑や赤や黄色をひっくるめて bell pepper または単に pepper という。そこで、赤ピーマンは red pepper というのが普通だが、トウガラシも赤いので、それだけでは辛いか辛くないかあいまいだ。そのため、red bell pepper と呼ぶこともある。トウガラシは chili pepper または単に chili ということが多い。

なお、シシトウやカイエンヌペッパー、ハラペーニョもピーマンやトウガラシと同一種だが、ハバネロやタバスコペッパーは別の種だそうだ。

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羽鳥 公士郎