blog.鶯梭庵

二〇一七年 長月 廿三日 土曜日

日本語の「た」と英語の過去形 [/language]

「着いたら連絡して。」を英語でなんというか。"Call me when you arrive." でよいが、"... arrived." と過去形にする誤りが、日本人に多い。「着いたら」に「た」があるので、半ば自動的に過去形にしてしまうのだろう。しかし、この場合、着くのは過去ではなく未来だ。英語では過去形は使えない。では、なぜ日本語では未来の出来事に「た」を使うのか。

「た」は古くは「たり」であり、「たり」は「てあり」の約だとされる。そして、「てあり」は「つ」と「あり」が繋がったものだとされる。「つ」は完了を表す。したがって、「た」の元々の意味は「動作が完了した状態がある」ということだ。「た」の本義は過去ではなく完了であり、だからこそ未来の出来事にも「た」を使える。

一方、英語の過去形も、必ずしも過去の出来事を表すとは限らない。仮定法("If I were you, ..." など)や婉曲表現("I would like to ..." など)でも過去形を使う。英語の過去形は、発話状況から隔たりがあることを示す。過去の出来事が現在から切り離されている場合は過去形を使うが、過去の出来事の影響が現在までおよんでいたら現在完了形を使う。過去の出来事に過去形を使うと、現在からの隔たりが表現される。現在の出来事に過去形を使えば、それが事実と異なることが含意される。これが仮定法だ。また、自分の要望を過去形で言えば、間接的でかしこまった表現になる。

日本語の「た」は完了を表し、英語の過去形は隔たりを表す。両者は元来別物なのだが、過去の出来事を言い表す場合、たまたま日本語では「た」を用い(かつては「き」や「けり」で過去を表したが、今は使われない)、たまたま英語では過去形を用いる。そのため、日本語の「た」と英語の過去形が同じ意味だと思い込んでしまうのかもしれないが、「た」を訳したらいつでも過去形になるわけではないし、その逆も然り。日本語の「た」と英語の過去形は、用法が似ているというだけで、同じ意味ではない。

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羽鳥 公士郎