二〇〇六年 如月 廿六日 日曜日■ Hope springs eternal [/language]この記事は書かれてから1年以上経過しています。内容が古くなっている可能性があります。コメントの受付は終了しました。 TidBITS#817 の記事 "Input Manager は悪魔の業か?" を訳していて、訳に困った箇所があった。"... and hope, while it may spring eternal, is not an effective security technique." という部分の "spring eternal" が問題だった。その前の "it" は "hope" に違いなく、"spring" は "may" の直後にあるから動詞に違いない。しかし、"eternal" は形容詞だ。spring の後に形容詞が続く例としては、「The door sprang open. ドアがパッと開いた。」という用法があるが、「希望はパッと永遠になるかもしれない」では意味が通らない。 そこでいろいろ調べてみると、英英辞典に "hope springs eternal" という項目があった。これは、18世紀前半に活躍した英国の詩人 Alexander Pope が 1732年に著した「人間論」の一節、"Hope springs eternal in the human breast" に由来する慣用句だそうだ。「希望は人間の胸に永遠に湧き続ける」と訳すことができる。(それらしく訳せば、「心は永遠なる希望の泉」とでもなろうか。「人の心の中に春よ、永遠に」と訳しているサイトがあるけれど、これは誤訳というべきだろう。) この言葉を「いついかなるときでも希望を捨ててはいけない」という肯定的な教訓と捉える人もいるようだが、TidBITS の記事では "may" がついているし、前後の文脈から考えて、シニカルに「人は見込みのないことでも願い続けるものなのかもしれないが、それでセキュリティが実現されるわけではない。」と訳してみた。 [この記事だけを読む。] [最新の記事を読む。] 二〇〇五年 師走 廿七日 火曜日■ fake butter [/language]この記事は書かれてから1年以上経過しています。内容が古くなっている可能性があります。コメントの受付は終了しました。 今週と来週は TidBITS がお休みなので、TidBITS#808 クリスマス特集号から、気になった言葉をいくつか。 "fake butter" という言葉がある。「模造バター」「バターの代用品」という意味だが、日本の食卓にある fake butter は圧倒的にマーガリンだろうと思うので、「マーガリン」と訳した。日本のショートニングも fake butter に含まれるだろうし、ベジタリアン用の植物性 fake butter もある。 「マーガリン margarine」の語源は「真珠 margarite」。製造過程で現れる油の粒が真珠のように見えるからだそうだ。カクテル「マルガリータ margarita」の語源については、日本では、創作者が、狩猟の流れ弾に当たって亡くなった恋人の名前 Margarita Mendez から名付けたというのが通説になっているが、実際には様々な説があり、アメリカでの通説は、ダラス社交界の有名人 Margarita Samas が、1948年にメキシコ・アカプルコの別荘で開いたクリスマスパーティーで作ったからというもの。 「ショートニング shortening」は、"short" に "-en" をつけて動詞化し、それに "-ing" をつけて名詞にしたもの。ここでの "short" は、「短い」という意味ではなく、「サクサクした」「パサパサした」「もろい」という意味。本来は、お菓子の生地に練りこんでサクサクにするものがショートニングで、その意味ではバターやラードもショートニングだが、日本でショートニングといえば、ほとんどは fake butter だ。「ショートケーキ shortcake」は、サクサクしたケーキの意味。日本のショートケーキはサクサクしていないので、本当のショートケーキではない。(なんだか、日本の食べ物はでたらめばっかりだ。)「ショートアイアン short iron」は、ゴルフでは「飛距離の短いアイアン」だが、鉱工業では「もろい鉄」を意味する。 なお、fake butter に含まれるトランス脂肪酸は体に悪いそうだ。 [この記事だけを読む。] [最新の記事を読む。] 二〇〇五年 師走 十二日 月曜日■ カスタムできる? [/language]この記事は書かれてから1年以上経過しています。内容が古くなっている可能性があります。コメントの受付は終了しました。 現在 TidBITS#808 クリスマスプレゼント特集号を訳している。 この中に、"customizable" という単語が何度か出てくる。これは、"custom" が形容詞で、それに "-ize" がついて動詞になり、さらに "-able" がついて形容詞になったものだ。"custom" は日本語にしづらいので、カタカナで「カスタム」ということが多い。「カスタムアプリケーション」「カスタムカー」「カスタムテーラー」などという。すると、"customizable" は「カスタム化可能な」「カスタマイズできる」などと訳すことになる。 ところが、Google で「カスタムできる」と検索してみると、執筆時点で 9130件もヒットした。「カスタムした」で検索すると 26000件、「カスタムする」では 34000件もヒットする。 日本語では、形容詞に「〜する」をつける場合、連用形にしなければならないから、「カスタムにする」が正しい。「カスタムする」というのは、「静かする」「きれいする」と同じで、明らかに誤用だ。しかし、誤用がウェブ上に何万件もあるとなると、この用法はひょっとしてますます広まってしまうのかもしれない。どうしてこのような誤用が広まっているのかと考えると、3つ理由が考えられる。 第1に、「カスタム」が外来語であるために、形容詞ではなく名詞であると誤解されているのかもしれない。日本語では、名詞にそのまま「〜する」をつけて動詞にすることがある。だから、「カスタム化する」なら正しい。しかし、"custom" を名詞として使った場合、「風習」「習慣」「顧客」「税関」などの意味になり、「カスタム」の意味にはならない。これは単に、英語を知らない人が格好だけで横文字を使い、失敗した例といえるだろう。 第2に、「カスタム」が動詞であると誤解されているのかもしれない。横文字の動詞にそのまま「〜する」をつけることがある。"customize" は普通「カスタマイズする」と訳す。しかし、"customize" は動詞だが "custom" は動詞としては使えない。これも英語を知らないが故の誤用だが、「カスタム」が「u」で終わっているだけに、動詞であると勘違いしやすいのかもしれない。 第3に、「カスタム」が形容詞であることを知っていたとしても、「カスタムする」に違和感を感じない人がいるのかもしれない。形容詞の活用を考えると、連用形は「u」で終わる。「青くする」「美しくする」という具合だ。「カスタム」もやはり「u」で終わっている。それが違和感を多少とも和らげているのかもしれない。 そうはいっても、形容詞の連用形は必ず「く」で終わり、「む」になることはないのだから、「カスタムする」に違和感を感じない人は、日本語に鈍感だと言わざるを得ない。「カスタムくする」の方がまだましだ。 蛋白室工房さんのコメント: 羽鳥さんのコメント: バジルさんのコメント: [この記事だけを読む。] [最新の記事を読む。] 二〇〇五年 長月 廿六日 月曜日■ 毛虫と鞭と猫 [/language]この記事は書かれてから1年以上経過しています。内容が古くなっている可能性があります。コメントの受付は終了しました。 英英辞典を見ると、ほとんどの言葉に語源が載っているので、ついつい読んでしまう。 英語で「毛虫」は "caterpillar" という。これは古フランス語の "catepelose" から来たものと考えられているそうだが、"cate" は「猫」、"pelose" は「毛むくじゃらの」という意味なのだそうだ。つまり、"caterpillar" は、「毛むくじゃらの猫」という意味になる。何で毛虫が猫なんだろう。 ついでに、フランス語では毛虫は "chenille" というが、これはラテン語の俗語で「子犬」を意味する言葉から来ているそうだ。フランスの毛虫は犬に見えるのか。 猫で思い出したのだが、ジョン・ゾーンが1988年に作曲した弦楽四重奏曲に "Cat O' Nine Tails" というのがあって、これが NHK FM で放送されたときに、「九尾の猫」と訳されていた。しかし、これは適切な訳とはいえない。"cat-o'-nine-tails" というのは、結び目を付けた紐を9本束ねた鞭のこと。かつてはイギリスで刑罰に使われていたが、現在の使い道は SM ぐらいだろうか。そういえば、ゾーンの曲も SM チックだ。(いや、私は SM を体験したことはないですよ。) [この記事だけを読む。] [最新の記事を読む。] 二〇〇五年 長月 廿三日 金曜日■ 機械翻訳にはできないこと [/language]この記事は書かれてから1年以上経過しています。内容が古くなっている可能性があります。コメントの受付は終了しました。 翻訳をしていると、原文の誤りに気がつくことがある。原文を書いている人も人間だから、間違えることはある。それを訳すときには、間違いに気づき、本当は何と書くつもりだったのかを判断しなければならない。 今週の TidBITS では、誤りを2箇所見つけた。まず、 FileMaker Pro's target audience has always been the active end users and do-it-yourselfers, for whom FileMaker's ease of use has been more important that its power. という文。最後の "that" が問題だ。文法的に言って、ここに that が来ることはありえない。これは、直前に "more" があるので、"than" の間違いだとすぐ分かる。 2つ目は Now, you define the fields, including the auto-entry options (date modified or time modified), copy them in one table, then paste them into the field list for each of the other fields. という文。これも最後の "fields" が問題だ。それぞれのフィールドにフィールドリストがあるというのは、論理的におかしい。これは、"one" と "the other" の対比になっていると判断して、本来は "fields" ではなく "tables" だと考える。 最近のソフトウェアにはスペルチェック機能がついていることが多いが、than を that と間違えても、that も辞書に掲載されているから、誤りが検出されない。また、文法チェック機能があれば、than と that の間違いは見つかるかもしれないが、fields と tables の間違いは検出できない。 このような間違いを見つけて修正するには、スペルや文法だけでなく、文の意味も考えなければならない。それも、1つの文だけでなく、全体の文脈を考慮する必要があることも多い。こういうことは、現在のコンピュータにはできない。ほんやくコンニャクが実用化されて翻訳家が路頭に迷うという時代は、当分来そうにない。 バジルさんのコメント: 羽鳥さんのコメント: [この記事だけを読む。] [最新の記事を読む。] |
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