blog.鶯梭庵

二〇〇六年 霜月 十四日 火曜日

1つ以上 [/language]

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最近、翻訳チェックの仕事を始めた。人の誤訳を見つけるのが仕事という、考えてみれば何とも意地悪な仕事だ。

今日見つけた誤訳の中に、「1つ以上」というものがあった。原文は "more than one"。"more than __" はその数を含まないが、「〜以上」はその数を含む。だから、「1つ以上」は完全な誤り。しいて直訳しようとすれば「1つより多く」となるが、普通は「2つ以上」と訳す。同様に、"more than two" は「3つ以上」となる。

ちなみに、英語で「1つ以上」といいたいときは、"one or more" という。

さんのコメント:
はじめまして。

何の数がどのような場面で "more than one" なのかにもよると思いますが、「複数(の)」とした方がよい場合も多いのではないでしょうか。

たとえば、文中に "more than two" や "〜 three" など、個数の下限を表す表現が他にない場合、"more than one" は「1つではない」(もちろん0でもない)ということを伝えようとしているはずです。

このような場合は、訳文に「2」という数字を入れてしまうよりも、「複数」を使用する方が原文のニュアンスにより忠実であり、かつ自然な日本語であると考えます。

「2つ以上」という訳を「普通」と言うのは少し危険かもしれません。

羽鳥さんのコメント:
白さん、コメントをありがとうございます。
おっしゃる通り、原文が伝えようとしていることは、多くの場合「1つではない」つまり「複数」だということでしょう。しかし、1とそれ以外、単数と複数とを区別するという態度自体が、英語にはあっても日本語にはないと思うのです。
以前、日本語を勉強しているカナダ人と話していて、「単数と複数を区別しないで日々の生活を送っているなんて考えられない。」と言われたことがあります。実際、日本人は、単数と複数の区別をほとんど気にしません。日本語に名詞の複数形がないわけではないですが、複数形にできる名詞はむしろ少数派ですし、複数形の作り方も決まっているわけではありません。1つと2つの違いと、2つと3つの違いとを比べると、英語の感覚では大違いですが、日本語の感覚ではたいして違わないのです。
私の感覚では、「単数」「複数」という概念自体が西洋からの輸入品で、日本語の文中で「複数」という言葉を使うと、翻訳調の堅苦しい文章になってしまいます。「いくつか」と言えば堅苦しくなりませんが、あいまいになってしまいます。「複数」と訳した方がよい場面も確かにあるでしょうが、自然な日本語はやはり「2つ以上」だと思います。

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二〇〇六年 神無月 卅一日 火曜日

Halloween [/language]

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今日の夜はハロウィン Halloween だ。ハロウィンとは、キリスト教の全聖人を記念する万聖節 All Hallow's Day の前夜祭で、All Hallow Even が縮まった名称だそうだ。ケルトの火祭りに起源を持つとされる。

アメリカでは、子供たちが仮装して家々を回り、"Trick or treat!" と言う。この場合、trick は「いたずらする」、treat は「ごちそうする」の意味。「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ」と脅しているわけだ。それに備えてお菓子を用意しておくのが大人の務め。カボチャを彫って蝋燭を灯した Jack-o'-lantern を窓際に置いておけば、「お菓子がありますよ」というサインになる。子供たちに脅されたら、"Happy Halloween!" と言ってお菓子を渡す。

ハロウィン・ジャパン・インフォ

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二〇〇六年 神無月 廿八日 土曜日

関係代名詞の訳し方 [/language]

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英語の関係代名詞には2種類ある。「,」のついているものと、ついていないものとである。一方、関係代名詞の日本語訳のしかたにも2種類ある。前から訳す方法と、後ろから訳す方法とである。学校の英語の授業では、「,」がついていれば前から訳し、「,」がなければ後ろから訳すように教えられる。

しかし、それは、そう訳すとうまくいくことが多いということであって、そう訳さなければいけないということではない。英文法としては、「,」のあるなしで多少の違いがあるのだが、日本語にはそもそも関係代名詞がないのだから、その違いを訳し分けようとしても無理というものだ。日本語として分かりやすいように、臨機応変に訳すほかない。

今週の TidBITS 日本語版で私が翻訳を担当した記事 国際スパムの家 に、こんな文章がある。


The suit was brought by David Linhardt, who operates e360 Insight, and who alleges that Spamhaus has misrepresented the nature of his business - opt-in mailings, he claims - and impaired his revenue. Linhardt maintains that Spamhaus does business in the jurisdiction of the Illinois court in which he filed the suit.


最初の文に「,」つきの関係代名詞 "who" が2つある。どちらの先行詞も "David Linhardt" だ。次の文には「,」なしの "which" があり、この先行詞は "the jurisdiction of the Illinois court" だ。すると、英語の授業での模範的訳は以下のようになる。


この訴訟は David Linhardt によって起こされ、彼は e360 Insight を経営しており、そして彼は...云々...と主張している。Linhardt は、Spamhaus が、彼がそこで訴訟を起こしたところの Illinois 州裁判所の管轄地で活動をしていると主張している。


これでは分かりにくい。「e360 Insight を経営している」は前に持ってきた方がよいし、「彼がそこで訴訟を起こした」は後ろに回した方がよい。(自分の訳をあらためて見直してみると、まだまだ分かりにくい。直したいところがいくつかあるが、関係代名詞の訳し方については、これが最善だと思う。)

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二〇〇六年 神無月 廿二日 日曜日

魚の名前 [/language]

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先日、スーパーの魚売り場を見ていたら、「わらき」のアラが売っていた。「わらき」というのは聞いたことがないし、見た目は小さいブリなので、「わらさ」の誤りに違いない。「わらき」というラベルのついたパックが並んでいるのは、ちょっと笑える。「半額」のシールが貼ってあったが、商品名が間違っているから売れなかったのでは、と勘ぐってしまう。

ワラサは出世魚で、生長するにつれて、東京ではワカシ、イナダ、ワラサ、ブリと呼び名が変わる。関西ではツバス、ハマチ、メジロ、ブリとなるが、今では養殖ブリをハマチと言うことが多い。ブリの旬は冬だが、ワラサの旬は秋だ。私が想像するに、旬も違うし味も違うからこそ、別の名前が付いたのだろう。魚の食文化が発達した日本ならではだ。

その点、英語では、イナダもワラサもハマチもブリも、ついでにヒラマサも、おしなべて yellowtail ですませてしまう。しかし、最近は英語圏でもすしが一般的になっているので、ハマチを young yellowtail、ブリを adult yellowtail と言い分けることもあるようだ。

言い分けといえば、ウナギを river eel、アナゴを sea eel と言うこともある。昔は江戸前と言えば鰻だったわけで、私のイメージではウナギといえば海なのだが、実際は産卵のために川を下る「下り鰻」がもっともおいしいそうだ。もっとも、今となっては天然のウナギは高嶺の花で、庶民にとっては海も川もあったものではない。

さて、わらき、もといワラサは、白菜と一緒に醤油味で煮て、ユズ風味で食べた。おいしかった。

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二〇〇六年 神無月 十一日 水曜日

折り紙における「試行錯誤」の訳 [/language]

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小松さんの fold/unfold で、折紙探偵団99号の西川さんの記事が話題になっているので、遅ればせながら、その記事を今日読んだ。内容についてはもう少し考えたいが、その前に、13ページ表2の英語が少し気になった。「試行錯誤」を "just folding" と訳しているのだ。

通常、「試行錯誤」は "trial and error" と訳す。というより、もともと英語で "trial and error" という言い回しがあって、それを日本語に訳したものが「試行錯誤」だ。20世紀前半に活躍した心理学者ソーンダイクが提唱した概念だそうだ。

それをあえて "just folding" としたのは、特定の目標を持たずにただ折ってみるということだろう。例えば、ネコを折りたいと思って、ネコの形を目標としていろいろ折ってみて、たまたまネコができると、それは trial and error ということになるが、何も目標を持たず、ただ折ってみて、できた形を見て「おお、これはネコだ」とやるのが、西川さんのいう「見立て」ということになる。

そう考えると、"just folding" というのも理解できるが、もっとぴったりの英語がある。"doodling" という。折り紙で「適当に折っていたらこんな面白いものができた」というようなときに、よく使われる言葉だ。

タトさんのコメント:
よく覚えていないのですが、just foldingは確か今年のコンベンションのBrian Chanさんの講演の中で出てきたフレーズだったような気がします。Jason Kuによるとjust foldするのが最近の日本の折紙事情らしいというような文脈だったかと思います。

ミヤジマさんのコメント:
チャン氏が使ってたのは"Random Folding"でした。面白い表現だと思ったので印象に残ってます。

nishikawaさんのコメント:
タトさんのご指摘の通り、Brian Chanさんの講演で使われていて、まさにその文脈だと理解してます。結構ピッタリくるなぁと、面白く思ったので、使ってみました。注釈入れようかと思ったんだけど、ただでさえ文字がいっぱいだったので抜いてしまいました。

羽鳥さんのコメント:
タトさん、ミヤジマさん、nishikawaさん、コメントありがとうございます。
私はブライアン・チャンさんが何と言っていたかよく覚えていないのですが、"just folding" ですと、"doodling" よりは少し意味が広くて、"trial and error" も含むのかなと想像します。いずれにせよ、"just folding" や "random folding" でも、おかしいことはないと思います。"doodling" は口語的に過ぎるかもしれません。

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羽鳥 公士郎