二〇〇七年 卯月 八日 日曜日■ 中間者と中間一致 [/language]この記事は書かれてから1年以上経過しています。内容が古くなっている可能性があります。コメントの受付は終了しました。 "man-in-the-middle attack" という言葉がある。「中間者攻撃」と訳すことが多い。「MITM 攻撃」と言うこともある。アリスとボブが公開鍵暗号を使った通信をするとき、それを盗聴しようとするイブは、両者の中間に割り込み、アリスに対しては自分がボブだと偽り、ボブに対しては自分がアリスだと偽る。するとイブは、アリスから受信した暗号を復号して盗み見、それをもう一度暗号化してボブに送信することができる。こうすることで、イブは、アリスとボブに気付かれることなく、盗聴することができる。「バケツリレー攻撃」"bucket brigade attack" と言うこともある。 同じ「MITM 攻撃」に、"meet-in-the-middle attack" というのもあるのでややこしい。こちらは「中間一致攻撃」と訳すことが多い。n bit の鍵を使う秘密鍵暗号では、可能な鍵でしらみつぶしに復号してみれば、多くとも 2n 回の試行で解読できる。これを「総当たり攻撃」とか「ブルートフォース攻撃」という。(英語では "brute force attack"。"brute force" は「力づく」の意味。)そこで暗号化を2回ほどこすと、総当たり攻撃では 22n 回の試行が必要となる。ところが、平文とそれに対応する暗号文が入手できれば、平文を1度暗号化したものと、暗号文を1度復号したものとを比べて、一致する値を探すことによって、多くとも 2n+1 回の試行で2つの鍵を両方見つけることができる。これが中間一致攻撃だ。 このように、中間者攻撃と中間一致攻撃は、同じ MITM 攻撃でも、まったく違うものなのだが、"man-in-the-middle attack" を「中間一致攻撃」と誤訳する例があるようだ。たとえば Microsoft のウェブページとか Symantec のウェブページとか。 [この記事だけを読む。] [最新の記事を読む。] 二〇〇七年 弥生 廿三日 金曜日■ 24/7 [/language]この記事は書かれてから1年以上経過しています。内容が古くなっている可能性があります。コメントの受付は終了しました。 英語には "24/7" という表現がある。これを「1日24時間、週7日」と訳しているのを見たことがある。まあ、確かに各数字はそういう意味なのだけれど、そういうときは、日本語では「24時間365日」とか「年中無休、24時間営業」などと言うのが普通だ。 アメリカでは、日付や期間を特定するのに、曜日や週を使うことが多い。日本語なら「一昨日」と言うところで「この前の水曜日(last Wednesday)」と言ったり、「一か月半」というところで「6週間(six weeks)」と言ったりする。祝日も、Martin Luther King, Jr. Day は 1月の第3月曜日、Thanksgiving Day は 11月の第4木曜日というように決まっている。そこで、英語で「毎日休まず」と言いたいときは、"seven days a week" が普通の表現となる。 あちらの神様は7日間で世界を作ったのだから、アメリカ人にとって1週間が7日というのは身に染みついているが、日本人が七曜にしたがって日々の生活を送るようになったのは、公式に言っても明治になってからで、昔は十干十二支で日付を表すこともあったし(「酉の市」などに残っている)、今でも六曜を気にする人がいるくらいだから、日本人にとって七曜はアメリカ人ほどなじみがない。そのため、"24/7" の "7" を「週7日」と訳しても、ちっともピンとこない。誤訳とは言えないかもしれないが、表面的に言葉を置き換えただけの、機械翻訳レベルの訳と言えよう。 [この記事だけを読む。] [最新の記事を読む。] 二〇〇七年 如月 十日 土曜日■ 辞典は最低3冊 [/language]この記事は書かれてから1年以上経過しています。内容が古くなっている可能性があります。コメントの受付は終了しました。 昨日、こんな訳文をみつけた。 原文: Slide the tape drive into the drive bay until it is flush with the back of the Library. 訳文: テープ ドライブをドライブ ベイに挿入し、ライブラリの背面と面一になるまで押し込みます。 「面一」という言葉は初耳だったので、調べてみると、建築用語で、「つらいち」と読むそうだ。リーダーズ英和辞典に "flush" の訳語として載っていた。しかし、この文章はコンピュータ関係のマニュアルなのだから、いきなり建築用語を使うのは、誤訳と言うべきだろう。 おそらく翻訳者は、「面一」と言う言葉を知らず、英和辞典に出ているからといってそのまま使ったのだろう。しかし、書いている本人が理解していない文章を、読者が読んで理解できるはずがない。単語を置き換えるだけなら機械翻訳にもできる。機械翻訳の文章が読みにくいのは、コンピュータは英語も日本語も理解できないためだ。 英和辞典を引いて、耳慣れない言葉が出てきたら、その言葉を国語辞典で引いて、意味を確かめるというのが、最低限必要だ。「面一」というのは広辞苑に出ていない。したがって、この言葉を使ってよいのは、建築の専門家向けの文章だけだ。 また、似た言葉がいくつかあって、どれを選ぶか迷ったときにも、国語辞典が役に立つ。英語を日本語に訳すときは、英和辞典だけでなく、国語辞典を引く習慣をつけるとよい。 英和辞典を引いても適切な訳語が見つからない場合、英英辞典を引くとよい。たとえば "flush" なら、"Having surfaces in the same plane" という説明がある。そこで、"until it is flush" は、たとえば「面が揃うまで」と訳せる。 ついでに言うと、英語の単語は文脈によってさまざまに訳し分けなければならないことが多い。それを判断するのに必要な細かいニュアンスを知るのにも英英辞典が役に立つ。 そういうわけで、翻訳をするときには、辞典が最低3冊必要になる。かつては大きな辞典を机の上に置いていたのだろうが、今ではコンピュータの中に格納できるから便利だ。さらに、複数の辞典を一括で検索できるソフトウェアもある。私は Jamming を使って7冊の辞典を同時に引いている。 タトさんのコメント: [この記事だけを読む。] [最新の記事を読む。] 二〇〇七年 如月 四日 日曜日■ 神こそ我が副操縦士 [/language]この記事は書かれてから1年以上経過しています。内容が古くなっている可能性があります。コメントの受付は終了しました。 今週号の TidBITS で私が翻訳を担当した記事に、Fog Creek Software の Copilot という製品のレビューがある。この記事の原題は "Fog Is My Copilot" となっている。"Fog" と会社名の一部だけが使われているのは不審なので、調べてみると、"God is my copilot." という言い回しがあるようだ。「神は常に自分のそばにいてくれる」というような意味のモットーだろう。Robert Lee Scott Jr. が自身の戦争体験をつづった本 "God Is My Co-Pilot"(1943年)が、当時ベストセラーになったようで、1945年に映画化されている。 また、1999年には Manuel Ocampo: God Is My Copilot というドキュメンタリー映画も制作されているし、God Is My Co-Pilot というバンドもある。 別の翻訳者から教えてもらったのだが、愛犬家たちは、これをもじって "Dog is my copilot." と言っているそうだ。ほかにも "___ is my copilot." という言い回しはそれなりに使われるようだ。Copilot のレビューに "Fog is my Copilot" というタイトルを付けているのも、TidBITS だけではない。 [この記事だけを読む。] [最新の記事を読む。] 二〇〇七年 睦月 卅日 火曜日■ and/or の訳し方 [/language]この記事は書かれてから1年以上経過しています。内容が古くなっている可能性があります。コメントの受付は終了しました。 先週、こんな誤訳を見つけた。 原文: SFF drive enclosure with single I/O module, redundant hot plug power supplies and hot plug fans 誤訳: SFFドライブ・エンクロージャ(シングルI/Oモジュール搭載)、ホットプラグ対応リダンダント・パワーサプライおよびホットプラグ対応ファン 訳例: シングルI/Oモジュール、ホットプラグ対応リダンダント・パワーサプライ、ホットプラグ対応ファンを搭載したSFFドライブ・エンクロージャ 原文: Remote system management via Web-based Graphical User Interface (GUI), Remote Desktop or Telnet 誤訳: Webベースのグラフィカル・ユーザ・インターフェース(GUI)を使用したリモートシステム管理、リモートデスクトップまたはTelnet 訳例: Webベースのグラフィカル・ユーザ・インターフェース(GUI)、リモートデスクトップ、Telnetを使用したリモートシステム管理 どちらも同じまちがいをしている。"," の後に "and" や "or" があるので、3つの項目が並列になっているのだが、"," で文が切れていると誤解している。しかし、これは日本人にありがちな誤訳といえるかもしれない。日本語で「I/Oモジュール、パワーサプライとファン」と書けば、「と」がつなぐのは「パワーサプライ」と「ファン」だけで、「I/Oモジュール」は並列にならないからだ。 逆に言えば、これを例えば「I/Oモジュール、パワーサプライおよびファン」と訳すと、日本語として非常に不自然になる。ところが、実際にはそのように訳す翻訳者も多い。このような機械翻訳レベルの訳は慎みたい。 では、どう訳せばよいかというと、日本語では3つ以上の項目を並列させるときの決まりがないから、臨機応変に訳すしかない。訳例のように「、」でつなげてもよいし、「WebベースのGUIか、リモートデスクトップ、Telnet」としてもよい。場合によっては「I/Oモジュールとパワーサプライとファン」と訳すこともあるだろう。最後の項目を強調したいとき、最後の項目の前に接続詞を置くこともあるが、その場合でも、「I/Oモジュールとパワーサプライ、およびファン」のように、最初の項目の後にも接続詞を置く。"and" や "or" を厳密に解釈しなければならない場合は、「I/Oモジュール、パワーサプライ、ファンのすべて」「WebベースのGUI、リモートデスクトップ、Telnetのいずれか」などと訳す。 英語では "A and/or B" という表現をよく使う。これを「A および/または B」などと訳す人がいるのだが、もってのほかだ。これでは日本語になっていないから、翻訳とは言えない。厳密に解釈する必要がある場合は「A と B のいずれかまたは両方」などと訳すが、通常は「A や B」と訳す。 元71さんのコメント: [この記事だけを読む。] [最新の記事を読む。] |
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