blog.鶯梭庵

二〇〇九年 卯月 廿五日 土曜日

折り紙の楽しみ、折る楽しみ、折りの楽しみ [/origami]

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nh さん小松さんが、折りの楽しさについて意見を交換していて、興味深く読んでいたのだが、私の名前が出てきたりしたので、反応しようと思った。

私の考えでは、折り紙の楽しみの中で折りの楽しみが占める割合は、あまり大きくない。むしろ大きいのは、小松さんの言う「形ができていく/形を作り上げていく体験」だろうが、それは個々の折りが楽しいということとは直接つながらないように思う。

たとえば料理にしても、最後においしい一品を食べることができる、あるいは人に食べてもらうことができると思うからこそ、面倒な下ごしらえも手を抜かずにするのであって、みじん切りを楽しいと思うかどうかというのは、料理の楽しさとは直接つながらない。もちろん、みじん切りを楽しいと思えればその分だけ料理の楽しみが増えるということにはなるだろうが、それはかなりマニアックな楽しみ方だと思う。

折り紙の場合も、折る楽しみというのは、1枚の紙から自分の手で最終的な形を作ることの楽しみであって、作品を完成させたときの達成感が大きな要素を占めるのではないか。少なくとも私の子供時代を振り返ってみれば、作品を自分で満足のいくように折り上げるということが楽しかった。個々の折りを面白いと思ったり心地よいと思ったりすることもときにはあるだろうが、それが楽しみで折り紙を折るのだとすれば、その時点でマニアというべきではないか。

一線折りの場合も、まずはでき上がりの形を面白いと思えなければ始まらない。その上で、その形が平らな紙からわずかな操作でできることを知ることで面白さが増すし、その操作を心地よいと思えばさらに楽しみも増すだろうが、折りの心地よさや折り技法としての面白さに重点が置かれているのではないと思う。

でき上がりの形が楽しめるとしたら、折り紙を自分では折らないけれどもでき上がりの作品を見るだけで楽しむという人がいるはずだ。料理で言えば、自分では料理をしないけれどおいしい料理を食べ歩くのは好き、という人だ。OrigamiUSA のボランティアとしてニューヨークの自然史博物館で折り紙教室をしていたときに、「折り方を教えてくれなくてもいいけど何か折ってくれないか」と言ってきた人がいた。そういう人は今後増えていくだろうし、私としては増やしてゆきたいと思っている。

ただし、一線折りとか「星・波」の場合、nh さんの言うように「わからない人はダメ」ということは確かにあると思う。芸術一般について言えることだが、抽象的な作品というのは、見る側に抽象的な物を受けいれる態度がないと面白く見えない。もっとも、そのような態度には知識は必ずしも必要ないし、知識が邪魔をすることもある。

いずれにせよ、私自身の創作・制作態度としては、折らない人を対象にしているし、それをしばらく続けるつもりだ。つまり、私は折り紙の楽しみの中心に見る楽しみをすえているわけで、折る楽しみも折りの楽しみも、直接的には追求していない。少なくとも、自分が折っていて楽しいことは目標にしないし、人に折ってもらうことにも関心がない。作品を見た人が、折る楽しみや折りの楽しみを感じ取ったとしたら、それはそれですばらしいことだと思うが。

一方で、見る楽しみ「だけ」が折り紙の本質だと言うつもりもない。本質論を「棚に上げる必要があるようだ」と書いたのは、そういう意味だ。逆に、折る楽しみや折りの楽しみだけが折り紙の本質だという人がいれば、喧嘩をする用意はある。実際、去年の話は、「折り紙的」であることを折り紙の中心軸からはずす試みでもあった。

ウィトゲンシュタインが「家族的類似性」という概念で指摘しているように、A と B は似ている、B と C は似ている、C と D は似ている、ということで A、B、C、D を1つの概念でくくることができたとしても、A と D とのあいだには共通点がないということもありうる。折り紙界の「まとまり」も、そういうものだと思う。

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羽鳥 公士郎