blog.鶯梭庵

二〇〇四年 霜月 廿一日 日曜日

創作された作品と制作された作品 [/origami]

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11月15日の記事「紙を折らない人にとって、折り紙作品とは何か」を書いたときには、あまり意識しないで「家族的類似性」という言葉を使ったけれど、前川さんの書き込みがあって、じっくり考えてみると、実はこの言葉を使ったことには重要な意味があったように思う。

家族的類似性についての、前川さんの理解は正しいと思う。設計図が親で作品が子供という関係があるのではなく、作品同士が、互いにどこか似ているが、すべてに共通する特徴はない。ということは、折り紙でいえば、折り図や展開図が、制作された作品に対して、規範としての機能を持たないということではないだろうか。それは参考にするもので、従うものではないのではないか。

創作された作品は、制作された作品の集合から抽出される抽象的な存在であるように思われるのだが、すべての制作された作品に共通する特徴がない以上、創作された作品がプラトン的なイデアとして機能することはあり得ない。そして、制作された作品の集合には常に新しいものが加わってゆくのだから、創作された作品は、○○さんの創作した○○という作品だということは動かないとしても、その内実は少しずつ変わってゆくことになる。

創作された作品を、このようなダイナミックなものとしてとらえれば、折り図や展開図があったとしても、それは創作された作品を十全に記述したものにはなり得ない。したがって、制作者としては、折り図や展開図の通りに折る必要はないし、むしろそこからはみ出して、そこにかかれていない要素を付け加えながら折る必要がある。制作者は折り図の行間を読むことになるのだ。

たとえば、折り図で「この点とこの点を合わせて折る」と書いてあるところで、わざとずらして折ってみる。そうすると表現の幅がぐっと広がる。ある程度複雑な作品では、たくさんの折り線が関係しあっているから、一本の線をずらそうと思うと、ほかの線もそれに応じてずらす必要が出てきて、折り紙設計の知識がないと収拾がつかなくなることもある。だから、こういうことは意外に高度な技術なのだけれど、それができるような制作者がたくさん出てくることを期待したい。このようなことは、音楽では日常的に行われていることなのだから。


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羽鳥 公士郎