blog.鶯梭庵

二〇〇七年 皐月 廿一日 月曜日

コンポージアム2007「西村朗 弦楽四重奏曲全集」@ 東京オペラシティコンサートホール [/music]

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2年の休止を経て再開されたコンポージアム2007の第1夜。西村朗の、新作を含む弦楽四重奏曲全4曲を、アルディッティ弦楽四重奏団が演奏した。

音楽は時間芸術であると言われるが、その時間は、必ずしもまっすぐ流れるとは限らない。ニュートン的な絶対時間が水平に流れているとすれば、最初の「弦楽四重奏のためのヘテロフォニー」(1975-87)では、時間は円を描きながら停滞し、そうかと思えば垂直に立ち上がる。

続く「弦楽四重奏曲第2番《光の波》」(1992)では、やはり時間が行きつ戻りつするが、次第に水平に流れ始め、曲の最後の部分、ケチャのリズムが現れると、時間は飛び跳ねながら疾走する。この部分は曲の中でも圧巻だが、時間は、まっすぐ進んでいるように見えて、大きな円を描き、曲が終わると、元いた位置に戻っていることに気づく。

3曲目は「弦楽四重奏曲第3番《エイヴィアン(鳥)》」(1997)。ここでの鳥は、天井の世界と地上の世界とを結ぶ結節点であり、信号を伝達するチャンネルである。曲の前半、異界からの信号が猛烈に降り注ぐ。それは変換され、高度に圧縮されているので、私たちの処理能力を越える。そのため、時間の流れは飽和し、凍結する。しかし後半、地上から応答を試みると、時間は再びゆっくりと流れ始める。

最後の曲は、この日が世界初演となった「弦楽四重奏曲第4番《ヌルシンハ(人獅子)》」(2007)。ヒンズー教ビシュヌ神の神話に題材をとった作品。明確な物語を伴うため、時間もそれに沿って流れる。また、演奏家4人にもそれぞれ役が与えられている。第1バイオリンが魔神ヒラニヤカシプ(兄弟を殺したビシュヌに復讐するため、人にも獣にも殺されない身体を得た)、第2バイオリンがビシュヌ神の第1の化身(慈悲を表す)、チェロが魔神の息子プラフラーダ(ビシュヌ信者のため、魔神が殺そうとする)、そしてビオラがビシュヌ神の第2の化身ヌルシンハ(半人半獣で、魔神を八つ裂きにする)。曲は、特に魔神が声を荒げている描写など、表現が直接的に過ぎる部分もあるように感じたが、技巧的には前3曲に劣らず難曲で、面白い響きも随所にあった。

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羽鳥 公士郎