blog.鶯梭庵

二〇一二年 如月 十日 金曜日

家庭用灌漑設備 [/language]

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最近、翻訳チェックをする機会がほとんどなくなったので、誤訳を見つける機会も少なくなったが、消費者向け電子機器に関する記事を翻訳しているときに、誤訳を見つけた。

その記事に "irrigation system" が言及されている。この部分は、関連する過去の記事からの引用なのだが、この過去の記事の日本語訳では、これを「洗浄システム」と訳していた。

irrigation は通常、「灌漑」と訳す。また、医学用語で「潅注」や「洗滌」と訳すこともある。しかし、この記事の文脈では、一般家庭で使うシステムであることが明らかなので、いずれの訳語も適切ではない。辞書に載っている訳語がどれも使えないということは、翻訳をしているとよくあることだ。

過去の記事を訳した人は、家庭で灌漑をすることはあり得ないと思って、「洗滌」からの類推で「洗浄システム」と訳したのだろうが、「洗滌」は手術している部位や傷口などを洗うことなので、irrigation が「洗浄」の意味だとしたら、洗う対象は、食器や壁ではなく、傷口に限定される。だから、家庭に洗浄システムがあるということも、やはりあり得ない。これは誤訳だ。

日本人、とくに大都市圏に住んでいる人にとっては、「家庭」と「灌漑」という概念はまったく結びつかないかもしれない。しかし、米国人にとっては、家庭で灌漑といえば、庭に水を撒くことだということがすぐに分かる。米国には広い庭が多いので、水を撒くにも灌漑システムが必要なのだ。日本人でも、Google の画像検索で "home irrigation" と検索してみれば、すぐに分かる。

とはいえ、家庭用の設備で「灌漑システム」というのは大げさすぎるから、「散水システム」や「撒水システム」などが適当だろう。(ちなみに、「散水」は「さんすい」と読むが、「撒水」は「さっすい」と読むのが正しいそうだ。)

たまたま最近読んだ、千野栄一著『外国語上達法』という本で、外国語を上達させるために必要な項目の最後の1つとして「レアリア」が挙げられていた。レアリアというのは、背景となる文化的・歴史的事実といった意味だが、これは、外国語の上達のために必要であるだけでなく、あるいはそれ以上に、翻訳にとっても必要だ。日本の家の中はだいぶ西洋化されているので、家庭用電子機器の翻訳でレアリアが問題となることはほとんどないが、庭の広さとなると、日本と米国では全然違う。


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羽鳥 公士郎