二〇〇七年 弥生 廿六日 月曜日■ 科学者はなぜ騙されるのか [/links]この記事は書かれてから1年以上経過しています。内容が古くなっている可能性があります。コメントの受付は終了しました。 最近、『論文捏造』と『背信の科学者たち』を読んだ。大変興味深かった。 科学の世界は、不正と盲信に満ちている。 プトレマイオスやガリレオは観測結果をでっち上げ、ニュートンやメンデルは実験結果を改竄し、ミリカンは測定データを取捨選択することでノーベル賞を受賞した。野口英世のおよそ 200編の論文は、今では科学的業績と認められていない。今日、科学者は、ポストを確保し研究資金を獲得するため、論文の質よりもむしろ論文の量を求められており、不正に対する誘惑はますます増している。最近でも、日本を含め世界中で不正の発覚は後を絶たないし、1度も引用されることのない論文が乱造されていることを考えれば、それらは氷山の一角に違いない。 また、科学者も人の子であるから、偏見から自由ではない。クーンが指摘するように、科学において、パラダイムがパズルを提供し、科学者はそのパズルを解く。何が「科学的」であるかは、1つのパラダイムの下で決められるから、パラダイムの転換は、非論理的・非合理的におこなわれるほかない。ファイヤアーベントが言うように、科学は歴史的かつ文化的脈絡によって形作られるイデオロギーである。そのため、ひとたびある1つの考えを持ってしまった科学者は、その考えを容易に捨て去ることができないし、新しい考えには抵抗を示す。20世紀初めのフランスの科学者は N 線の研究に忙しかったし、同じころイギリスの科学者はピルトダウン人の発見に熱狂していた。 科学者自身を含め、多くの人が、科学のシステムにはそのような不正や盲信を排除する機構が備わっていると信じている。ところが、現実には、それはまったく機能していない。そのため、ヘンドリック・シェーンは、科学界を数年間にわたって騙し続けた。自分たちは論理的・合理的であるという、事実と異なる信念を持っているため、科学者は、手品師に言わせれば、もっとも騙しやすいのである。ユリ・ゲラーにまっさきに騙されたのも科学者であった。 そこで、政治家が、自分の政策に科学の衣をまとわせたいと思ったとき、科学界に直接圧力をかける必要はない。少し世論を引っぱってやれば、まっさきに科学者がなびく。そして、科学者は、政治家が意図する通りの「科学的」結果を提供する。それをまとめあげると、たとえば「不都合な真実」のようなものをつくることができ、ますます強力に世論を動かすことができるようになる。 |
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