二〇一〇年 神無月 九日 土曜日■ 日本語には主語がない [/language]この記事は書かれてから1年以上経過しています。内容が古くなっている可能性があります。コメントの受付は終了しました。 金谷武洋著『日本語文法の謎を解く』を読んだ。 金谷はカナダで日本語を教えているそうだが、外国人向けに日本語を教えている人のほとんどは、日本の学校で教えられている文法を使っていない。というのも、いわゆる学校文法は、英語やフランス語を理解するための文法を無理矢理日本語に当てはめたものであるため、日本語の理解に役立たない。そして、そのような文法を学校で教えているため、日本人は日本語と英語の本質的な違いに気がつかないまま英語を勉強することになる。それが、日本人が英語ができない大きな理由であると金谷は考えているが、私もそれに同意する。 金谷によれば、文法の違いは発想法の違いと結びついている。文を作るとき、日本語では「〜ある」と表現することが多いのに対し、英語では「〜する」と表現することが多い。そのため、英語の文の骨格は常に「主語 + 動詞」であるが、日本語の文にはこの形にあてはまらないものが非常に多い。それを、「日本語の文は『主語 + 述語』である」などと説明するから、英語の習得に支障が出るのだ。 金谷によれば、日本語の基本的文型は「〜だ」(名詞文)、「〜い」(形容詞文)、「〜する」(動詞文)の3つである。英語の文が、主語と動詞がなければ文にならないのと異なり、日本語の文には主語も動詞も必要ではない。「主語無用論」を唱えたのは三上章であるが、金谷は三上文法を基礎としている。三上によれば、日本語に「主題」と「主格」はあるが、「主語」はない。「象は鼻が長い。」の「象は」は主題であり、「鼻が」は主格補語だ。この文に主語はない。主格補語を便宜的に「主語」と呼んでもよいが、日本語の主格補語は動作主体とは限らないので、英語の主語とは異なる。日英の翻訳では、この違いを意識することが重要だ。 日本人が英文を理解する場合は、たいていの場合英語の主語を日本語の主格補語として解釈すればよいが、それをそのまま訳文としてしまうと、直訳調の悪文となってしまう。和文英訳の場合はさらに問題で、そもそも主格補語がない場合が多いし、主格補語を主語にできないこともある。「頭が痛い。」を "My head is ..." と考え始めると、どうしたって英語の文にはできない。 私が仕事で和文英訳をする際、まず最初に考えるのは、主語をどうするかということだ。なんとかして主語をひねり出す必要があるが、逆に言えば、何を主語にするかをある程度自由に決められる。主格補語を主語にする必要はなく、英語として表現しやすい主語を選べばよい。その際、できるだけ「〜する」という文になるようにする。 たとえば、「象は鼻が長い。」を英訳する場合、「鼻が」を主語にするのではなく、「象が」を主語にする。「象の鼻が長い」ではなく「象が長い鼻を持つ」とすれば、自然な英語になる。つまり、"The elephant has a long nose." とする。 金谷はさらに、「〜ある」と「〜する」の違いを使って、敬語や自動詞・他動詞、受身なども鮮やかに分析してみせる。これも興味深い。 |
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