二〇〇九年 文月 二日 木曜日■ スティーブ・ライヒ『ディファレント・トレインズ』『エレクトリック・カウンターポイント』 [/music]この記事は書かれてから1年以上経過しています。内容が古くなっている可能性があります。コメントの受付は終了しました。 スティーブ・ライヒはミニマリズムの創始者の1人とされている。ミニマリズムというのは、短い音形を反復して音楽を作るものだが、ライヒの場合は単に繰り返すのではなく、複数のパートが少しずつずれてゆくという仕掛けがこらされている。個々のパートは単純でも、徐々にずらされることで、最終的に聞こえる音景は次々と変化する。その結果生まれる純粋かつ複雑な音楽は、他のミニマリストからは一線を画す。 ライヒは「カウンターポイント」と題する曲を何曲か書いているが、1987年の『エレクトリック・カウンターポイント 』はエレキギターで演奏される。カウンターポイントとは、日本語では対位法といい、本来は複数の異なる旋律を同時に演奏することをさす。ここでは、3つのパートが重ねられるが、それをすべてパット・メセニーが演奏している。2つのパートはあらかじめ録音しておき、それをテープで流しながら、もう1つのパートを演奏する。 ライヒの音楽には社会的なメッセージが含まれることがある。1988年の『ディファレント・トレインズ』もその1つで、ライヒの個人的な思い出とともに、ユダヤ人としての自分の出自を取り扱っている。この曲は3楽章からなり、それぞれ「アメリカ、戦前」「ヨーロッパ、戦中」「戦後」と題されている。テープと弦楽四重奏で演奏される。 ライヒの両親はニューヨークとロスアンゼルスに離れて住んでいたため、ライヒはしばしば列車に乗って大陸を横断していた。それを思い起こすかのように、列車の音がテープから流れ、弦楽器もその音をまねる。さらに、テープには人の声も含まれているが、それがメロディとして扱われ、楽器もそのメロディをなぞる。この手法は、ライヒの後の作品でも多用されることになる。 第2楽章で使われている声は、ホロコーストを生き延びた3人のユダヤ人のインタビューからとられている。音楽も、ノスタルジックな第1楽章とは雰囲気が異なり、戦時中の重苦しい空気を表している。そして第3楽章には、アメリカの列車の音が戻ってくるが、ヨーロッパのユダヤ人たちは安心しきってはいない。 なお、クロノス・カルテットが演奏したこのCDで、ライヒはグラミー賞を受賞している。 2曲とも3楽章構成で、伝統的な急・緩・急のソナタ形式を踏襲していると言えなくもない。対位法や弦楽四重奏という形式にもクラシック音楽の長い伝統がある。しかし、音楽の内容はきわめて現代的だ。それは、第二次世界大戦と戦後の社会という現代的なテーマを取り上げているからでもあるし、ポピュラー音楽、特にテクノミュージックに近づいているからでもある。 |
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