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二〇〇九年 卯月 十二日 日曜日

ヘンリク・グレツキ『悲歌のシンフォニー』 [/music]

ポピュラー音楽の世界ではミリオンセラーは珍しくないが、音楽ファンの中でクラシックファンが数パーセントで、その中でも現代音楽ファンが数パーセントだとすると、現代音楽の CD は1000枚売れれば大ヒットということになる。

そんななか、ドーン・アップショウのソプラノ、デイヴィッド・ジンマン指揮ロンドンシンフォニエッタの演奏するヘンリク・グレツキの『交響曲第3番・悲歌のシンフォニー』は、1998年までに100万枚売れたというから、現代音楽としてはとてつもないヒットとなっている。

グレツキは1933年生まれのポーランドの作曲家。ポーランドは当時東側だったが、1956年以降「ワルシャワの秋」音楽祭が開催され、西側の前衛音楽に開かれた窓口であった。グレツキも当初は前衛的な音楽を書いていたが、1970年代になると、調性的でゆっくりとした、比較的単純な音形を繰り返して曲を作るようになる。

1976年に書かれた『交響曲第3番』もその1つだ。前衛音楽の名残があるとすれば、ダイナミックレンジが大きいことくらいか。それでも、この曲では音の動きは終止ゆっくりとしていて、これ以降の作品のように音の強弱が急に変わるということはない。

曲は、レント、レント・エ・ラルゴ、レントの3つの楽章からなる。歌詞は、第1楽章が15世紀の哀歌、第2楽章はザコパネの強制収容所の壁に残された祈りの言葉、第3楽章は戦争で我が子を失った母親の悲しみを歌ったシレジア地方の民謡からとられている。全体として、戦争によって引き裂かれた母と子の悲しみと祈りがテーマとなっており、純粋に涙を誘う。

しかしこの曲はすぐに有名になったわけではない。アップショウとジンマンが演奏する CD が1992年にリリースされ、その第2楽章がロンドンのラジオ局でかかったことがきっかけで、爆発的なヒットとなった。「癒しの音楽」のブームに乗っかったという側面もあるだろうが、しかしグレツキの音楽はカトリックの深い信仰に根ざしており、癒しの音楽にしばしば見られる軽薄さとは無縁である。

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羽鳥 公士郎