二〇〇七年 睦月 三日 水曜日■ 「紙」の語源 [/language]この記事は書かれてから1年以上経過しています。内容が古くなっている可能性があります。コメントの受付は終了しました。 上・神・髪・紙は、いずれも「かみ」と読む。そのため「神は上にいるから神という」あるいは「紙は神聖なものなので紙という」といった俗流語源説が生まれた。しかし、このような説は、今では否定されている。 万葉仮名の研究から、上代日本語には、現在の「み」にあたる音に2種類あったことが分かっており、甲類の「み」・乙類の「み」と区別されている。上・髪・紙の「み」は甲類であり、神の「み」は乙類だ。そのため、上と神、神と紙とのあいだに語源的なつながりがあるとは考えられない。 甲類の「み」は現在の「み」と同じような音だったと考えられているが、乙類の「み」はどのような音だっただろうか。定説はないが、一説には mïi のような音ではないかという。つまり、「神」は「かむい」に近い発音であったと考えられる。そういえば、アイヌ語では「神」を「カムイ」と言うし、「神風」「神殿」「神宮」は「かむかぜ」「かむどの」「かむみや」とも読む。 乙類のイ音が二重母音であることの傍証として、「木」(乙類の「き」)や「火」(乙類の「ひ」)があげられる。「木の葉」「木陰」「木立」などでは「木」は「こ」と読むし、「火影」「火垂る」などでは「火」は「ほ」と読む。さて、日本語では、名詞の末尾に甲類の「い」が付加されることがある。そこで、乙類の「こ」に甲類の「い」が付加されて乙類の「き」となり、乙類の「ほ」に甲類の「い」が付加されて乙類の「ひ」になったと考えられる。「神」も同様に、「かむ」に甲類の「い」が付加されて「かみ」となったのではなかろうか。 乙類のエ音もまた二重母音であったと考えられる。「酒屋」の「酒」は「さか」と読むが、それに甲類の「い」が付加されると、「さけ」になる。つまり、乙類の「け」は kai に近い音であっただろう。「白髪」は「しらが」と読むから、「髪」はもともと「か」であったと考えられる。それに甲類の「い」が付加されると、乙類の「け」になるが、これがすなわち「毛」である。 さて、甲類の「い」が付加されるときに、あいだに子音がはさまることがある。「鳥羽」は「とば」と読むが、「羽鳥」は「はとり」と読む。「鳥」がもともと「と」であったところに、甲類の「い」が付加されたさい、to と i とのあいだに r がはさまって「とり」となったのである。「髪」も同様に、ka と i とのあいだに m がはさまって「かみ」となった。 「紙」の語源については定説がないが、一説には、木簡などの「簡」が語源ではないかという。そうだとすると、kan に i が付加されるときに、n が m に変化し、「かみ」となったと考えられる。また別の説では「樺」が語源だという。「樺」は「かば」とも「かんば」とも読むが、もともとは「かには」であったから、「かに」が変化して「かみ」となったのかもしれない。 |
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