blog.鶯梭庵

二〇一〇年 如月 四日 木曜日

iPad 発表の場で McGraw-Hill が言及されなかった理由 [/mac]

Apple の秘密主義はつとに有名だ。パートナー企業に対しても厳しい箝口令を敷き、それを犯せば制裁を受ける。竹内一正著『スティーブ・ジョブズ 神の交渉力』にも事例が紹介されているが、先週の iPad の発表でも同じことが起きた。

iPad の目玉機能の1つは iBooks という電子書籍リーダーで、発表イベントでは、コンテンツの提供元として、HarperCollins Publishers、Hachette、Penguin Books、Macmillan Publishers、Simon & Shuster の名前が挙がった。しかし、イベント前日のテレビ番組で、McGraw-Hill の CEO が、同社が Apple にコンテンツを提供すると言っていたのではなかったか。

Apple は、iTunes U で教材を提供するなど、教育市場に力を入れている。McGraw-Hill は教育関連書籍の大手で、電子コンテンツも多くかかえている。

iPad 発表のイベントで McGraw-Hill の名前が挙らなかった理由は、公表されてはいないが、明白だ。まさに、Terry McGraw 氏が、Apple が発表する前にタブレット製品の存在を明かしてしまったことが、Steve Jobs 氏の逆鱗に触れたのだ。

おそらく、iPad 発表のプレゼンでは McGraw-Hill がパートナーとして紹介される予定だったはずだし、CEO なり誰かがゲストとして呼ばれていたかもしれない。しかし、情報漏洩に対する制裁として、McGraw-Hill は急遽プレゼンから消され、iPad にとって重要なコンテンツであるはずの教科書は意図的に無視された。

iBookstore が運営を開始するときには、McGraw-Hill の書籍ははずされるかもしれない。しかし、教科書というのは大きな市場だから、米国で新学期がはじまる 9 月までには McGraw-Hill も赦されることだろう。

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二〇一〇年 睦月 廿九日 金曜日

タバコのリスクを計算してみた [/links]

元日に届いた学士会会報を今頃読んだ。東京大学医学部附属病院の中川恵一氏によると、癌の原因の3割はタバコだそうだ。

厚生労働省の平成20年人口動態統計(PDF)によると、2008年に亡くなった日本人は114万人ほど、そのうち癌で亡くなった人が34万人ほどで、癌は死亡原因の30%を占める。ということは、日本人の死因の1割程度はタバコだということになる。

この計算では、喫煙者と非喫煙者を分けていない。癌ができてから亡くなるまでの期間は20年から30年ということなので、1980年頃の喫煙率をJTの調査で見てみると、男性が70%程度、女性が15%程度、平均して4割程度だ。非喫煙者がタバコで死ぬことがないとすると、喫煙者のうち4人に1人はタバコのせいで癌になって死んでいることになる。実際には、受動喫煙のリスクがあるので、大雑把に喫煙者の5人に1人がタバコのせいで死ぬと考えればよいだろう。

乱暴な言い方をすれば、タバコを吸うということは、20%の確率で死ぬというリスクを冒していることになる。もちろん、タバコ以外の原因で死ぬ確率が80%あるわけだが、ギャンブルにしても割に合わないと思う。

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二〇一〇年 睦月 廿一日 木曜日

Google は中国から撤退しない [/links]

Google が中国でサイバー攻撃を受け、中国から撤退するかもしれないと発表したことが、大きな話題になっている。これについて、中国は言論の自由を封殺する悪者で、Google はそれに反旗を翻したというような見方がある。それも一面で正しいかもしれないが、別の側面もありそうだ。

当初の Google の発表では、今回の攻撃は、中国の反政府活動家の Google アカウントが狙われたものとされ、それによって中国政府の関与が暗示された。そのため米国政府までが動いたのだが、実際には、この攻撃は Google 社内のソースコードを盗み出すことが目的で、内部の人間が関与している可能性もあるという。そのような産業スパイ行為は、何も今にはじまったことではないし、攻撃を受けているのは Google だけではない。

Google's spy case: Not the first, nor the last

そこで気になるのが、今回の件で、Google が早々に中国語版 Google の検索結果から検閲を取り去ったことだ。実は、それこそが Google の狙いだったのではないか。Google は、世界の検索市場では圧倒的なシェアを誇るが、中国国内だけで見ればバイドゥ(百度)に大きく水をあけられている。検閲のない検索結果は、バイドゥからシェアを奪う強力な一手になりうるが、それをまともにやったのでは中国政府からお咎めを受ける。そこで今回のような騒ぎを演出したのではないか。米国政府が口を出したとなれば、中国政府も安易に手を出すことはできない。

検閲を取り去ることが Google の狙いだとすれば、Google はすでに目的を達成した。これ以上何もすることはない。バイドゥからシェアを奪うのを期待しながら、引き続き中国でビジネスを続けることだろう。もっとも、中国政府があくまで検閲を強制するなら、話はややこしくなるだろう。

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二〇一〇年 睦月 十六日 土曜日

石川議員逮捕は検察の横暴か [/links]

窪田順生著『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』を読んだ。その上で、石川知裕氏の逮捕劇を眺めていると、いろいろなことが推測できる。

そもそも、今回の「罪状」は、帳簿上こっちにつけるべき金をあっちにつけたということでしかないようだ。それも犯罪と言えば犯罪だが、裏金を隠したとか国民の利益を損ねたとかいうことはないようなので、公園で酒に酔って全裸になったら犯罪だというのとそれほど変わらない。全裸になった草なぎ氏は家宅捜索を受けたが、一般人ならそれぐらいのことで家宅捜索を受けることはない。石川議員にしても、帳簿をちょっとちょろまかしたぐらいで逮捕されるというのには、裏の意図がありそうだ。

その意味で興味深いのは、この本に紹介されている、元ライブドア社長堀江貴文氏の例だ。東京地検特捜部は、堀江氏が逮捕される1年ほど前から、堀江氏の逮捕をねらって、メディアを使って情報を収集していたそうだ。堀江氏の逮捕が前提にあって、罪状は何でもよかった。結局、堀江氏は、石川議員と同じような「有価証券報告書の虚偽記載」という容疑で逮捕された。

検察が小沢一郎氏をねらっていることは、西松建設に関する事件からも明らかだ。その騒ぎでは、小沢氏は民主党代表を降りたが、選挙に勝って幹事長になった。いわば検察の負けだ。そこで検察が巻き返しを図り、どうでもよいような罪で現職の国会議員を逮捕したとも考えられる。小沢立件が前提で、そのためにはあらゆる手段を使うというわけだ。

もちろん、今回の虚偽記載が裏金を隠す目的だったとすれば、小沢氏本人の責任も追及されるべきだ。しかし、上杉隆著『世襲議員のからくり』で指摘されていることだが、小沢氏は現在の政治資金規正法をつくった張本人だ。西松建設のときにも、裏金は見つからず、秘書が起訴されて終わった。今回も「表のカネ」である可能性が高いのではないか。

なお、この手の報道では「関係者への取材で分かった」というような表現がよくなされるが、これは、すべてではないにせよ、検察からのリーク情報が多いそうだ。著者の窪田氏は、西松建設の件で「東京地検特捜部からの『リーク情報』が大いに報道を賑わせた」と指摘している。

情報というのはすべからく、誰かが意図的に流したものだ。そのことを意識することが、メディアリテラシーの本質だろう。

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二〇一〇年 睦月 十四日 木曜日

Mac の使いやすさの一例 [/mac]

私は最近、Windows XP を使っているときに、コピーをするときはマウスを右クリックしてコンテキストメニューからコマンドを選択し、ペーストをするときはキーボードで Ctrl+V を押していることが多いことに気がついた。(これは私だけのことで、他の人がどうかは知らない。)

私は、よく使うメニューコマンドは基本的にキーボードショートカットを使う。保存なら Ctrl+S だし、印刷は Ctrl+P だ。Windows では、ウィンドウを閉じるコマンドやアプリケーションを終了するコマンドのショートカットがアプリケーション間で統一されていないので(Mac ではそれぞれ Command+W と Command+Q)、小さな「×」ボタンを、いちいち悪態をつきながらクリックしている。

それなのになぜ、コピーのときに Ctrl+C ではなくマウスを使っているのかと反省してみると、キーボードからコピーするときにフィードバックがないことが原因であることに気がついた。

私は Mac でコピーするときは、キーボードから Command+C を使う。このキーの組み合わせを押して、コピーが成功したとき、メニューバーの「編集」という項目が点滅する。それで、コピーが成功したことが分かるので、安心して次の作業に移ることができる。

ところが Windows では、Ctrl+C を押しても、何の反応もない。コピーができたのかできていないのか分からない。それで私は不安になってしまうので、無意識のうちにキーボードではなく右クリックを使うようになっていたのだ。コンテキストメニューなら、コピーが成功すればメニューが消えるので、それと分かる。

このように、ユーザーインターフェースにおいて、ユーザーの操作に対してマシンが応答するということは、使い勝手を大きく左右する。それも、その応答は即時でなければならない。応答が遅れると、ユーザーは、操作が失敗したのかと思って、同じ操作をもう一度繰り返してしまう。

そういう観点からあらためて Mac と Windows を比べてみると、つくづく、Mac のインターフェースがいかに使いやすくできているかと感心する。たとえばアプリケーションを起動するとき、Mac では Dock にアプリケーションのアイコンがすぐに現れ、飛び跳ね始める。それで、アプリケーションががんばって起動しているのだなと分かる。しかし Windows では、せいぜいカーソルの横に砂時計が出たり出なかったりするだけだ。

このことは、ウェブアプリケーションでも需要だ。以前は、ユーザーの操作に応答するためには、あらかじめローカルに読み込んでおいたデータを使うか、ページ全体を書き換えるかのどちらかしかできなかった。前者では即座に内容を書き換えられるし、後者ではいったんページが消えるので、いずれにしてもユーザーはすぐに応答を得ることができた。しかし Ajax を使うと、ユーザーが操作をしてから、それに対してサーバーからの応答が返るまでに、長い場合では数秒の遅延が生じることがある。

そこで、Ajax を使ったウェブアプリケーションでは、ユーザーの操作に対して、サーバーからのデータを使ってページの内容を書き換える処理に加えて、その処理を始めたことをユーザーに示すための処理を明示的に実装しなければならない。たとえば検索であれば、ユーザーが検索ポタンを押したときに、「検索中です」というようなメッセージを表示したり、くるくる回るインジケータを表示したりしてから、サーバにデータを要求し、データが返ってきたら、メッセージやインジケータを消して検索結果を表示するという流れになる。この一手間が使い勝手を大きく左右する。

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羽鳥 公士郎